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エイミー・ダグラスは待っていた。純白のウエディングドレスに身を包み、淡い金色の髪を霞のようなベールで覆い、綺麗に形作られた美しい花束を手にして。 教会の扉の中からはざわめきが聞こえてくる。もう三十分も開始時間を過ぎているのだ。誰かが様子を確かめに来たが、それが誰だったのか、エイミーの目には入らなかった。隣では、エイミーの父親が腕時計をちらちらと見ながら、熊のように歩き回っている。
――ジョンったら、一体どうしたのかしら。家は教会までは車で15分のところだし、彼の両親もジョンはとっくに家を出たって言っているのに。ひょっとして、私と結婚するのが嫌になって逃げ出してしまったのでは? ……いいえ! 彼とは幼馴染で子供の頃からずっと付き合ってきたのよ。今更逃げ出すなんてこと……。それにプロポーズして結婚をせかしたのは彼の方だし……。ま、まさか事故!?
ただでさえ透き通るように白いエイミーの顔を、不安が蒼白にしていった。
その時、タクシーが急ブレーキをかけて教会の前に停まった。中からはジョン・レノックスが転がるように出てきた。 「ごめん、エイミー! 遅れてしまって!」 「ジョン! 無事だったのね! ……どうしたの、その格好は!?」 白いタキシードは薄汚れ、ネクタイはひん曲がり、麦わら色の髪はぼさぼさに乱れ、ハンサムな顔には引っかき傷が出来ている。 「え? ああ、これ。朝早く目が覚めてしまって、どうにも落ち着かなないもんだから、散歩しながら教会に行こうと思って家を出たんだ。林の途中で木から降りられなくなっている仔猫がいてね、助けようと思って木に登ったら……」 「木から落ちたのね!」 「仔猫はちゃんと助けたんだよ! ただ、こいつに起こされるまでしばらく気絶していて……。えーと、飼ってもいいかい?」 タキシードの胸から、みすぼらしく痩せこけたオレンジ色の仔猫が顔を覗かせた。 「もう、ジョンったら! そんなあなたが大好きよ!」 エイミーはジョンの首にしがみついてキスをした。
◆◆◆ Fin ◆◆◆
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