◆◆◆◆◆◆ 前編 ◆◆◆◆◆◆
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「ソフィ、この家をどう思う?」 ランスがダークブラウンの瞳を輝かせて言った。私は剥がれかけた壁紙や破れたカーテンや舞い立つ埃を見回した。外は雪が積もっていて、家の中にいてもかなり寒い。吐いた息が白い湯気となって見える。 「正直に言ってもいい?」 「ああ」 「かなりのボロね」 「そこがいいんじゃないか! 直しがいがあって!」
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今、私、ことソフィア・ホワイトホースと、目下のところ私のボーイフレンドのランス・ワイルダーは、町からやや離れた林の中に一軒ぽつんと建っている古く荒れ果てた陰気とも言える空き家に来ていた。
私が子供の頃は、この家にはお婆さんが一人暮らしをしていたはずだ。何度か姿を見たことがあるが、痩せた背の高い人でいつも気難しそうな顔をしていた。人付き合いの良い人ではなかったのか、子供嫌いだったのか、近くで遊んでいたら「うるさい」と怒鳴られたことがある。それ以外に話をした記憶は全くない。町の子供たちは皆恐がってお婆さんのことを魔女と呼んでいた。家のことは当然ながら魔女の家と呼んでいた。今から思うと失礼な話である。 いつ頃、お婆さんがいなくなり、空き家になったのか、私は知らない。 最近の子供たちの間では、この家は<魔女の家>ではなく、<幽霊屋敷>と呼ばれているようだった。誰もいないはずの家から変な物音がしたり、誰かいる気配がしたりするというのだ。 ごく最近、町の住人になったランスは、おそらくその噂を知らないだろうが……。
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「ちゃんと直るの?」 私が不審そうに聞くと、ランスはあごひげをなでながら自信を持って答えた。 「まだ、全部は見ていないけど、土台はちゃんとしてるよ。最近の外見だけ良くて安普請の住宅よりは、ずっとがっちりしている。専門家が注意を払って手入れをしてやれば、見違えるように生まれ変わるよ」 専門家のランスが言うのだから間違いはあるまい。ランスは自分で設計事務所を構える建築家だ。 現在、町ではハイウェイができたために急激に人間が増え、それに伴い住宅が不足してきている。そんなわけで、リフォームしてすぐに売り出せる物件を探しているのだ。私たちはデートを兼ねたドライブがてら物件を見に来たというわけ。
先ほどまでいた玄関ホールから、がらんとしたリビングへ向かった。確かに壁紙を貼り直して、剥げかけたペンキを全部落として塗りなおせば、見違えるようになるかもしれない。 もし、この家が自分のものだったら、壁は淡い黄色にして、腰板は白に塗り、カーテンは白い生成りの無地にするだろう。淡い色の花柄でもいいかもしれない。色を合わせたソファーやテーブルを置けば、居心地の良い部屋になりそうだ。暖炉に火を入れて、ランスと二人でホットチョコレートを飲む冬の夕べ……。
「もし、この家が自分のものだったら、どうする?」 ランスが耳元でささやいた。 「えっ!」 考えていたことを見透かされたようで、私は焦った。ランスの深みのある声を耳元でささやかれると、思わずびくっと体が反応してしまう。彼もすぐにそれに気付き、楽しんでやっている節がある。 「そ、そうね。この辺りにソファーを置いて暖炉を囲むようにしたら素敵じゃないかしら」 「この家を見たときにピンと来たんだ。君と一緒にこの家で……」 ランスが続けて何かを言おうとしたが、キッチンの方からした不審な物音に妨げられた。
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