Greenery Park

〜視線〜

ソフィアの事件簿 ファイル2

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視線

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 『男は去っていく女の後ろ姿をじっと見つめた。
……アレはオレの女だ。誰にも渡しはしない。他の男にくれてやるくらいなら、いっそのことオレが……。』

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 私はソフィア・ホワイトホース。ソフィ・ホワイトというペンネームでミステリ小説を書いている。
 普段は、両親の家の敷地内にあるガレージの上にある部屋に篭って、パソコンを相手に仕事をしているのだが、時々煮詰まってしまい、散歩したり、喫茶店に入って休憩したりすることにしている。
 すると、いいアイデアが浮かぶ……か、どうかは、その時次第だが、まあ、息抜きになるのである。

 頭にふと浮かんできたシーンをノートに書きとめていると、視線を感じた。後頭部がチリチリと焦げるような感じがする。また、『彼』が来たらしい。

 ここ二週間程、お気に入りの喫茶店に休憩に行くたびに、『彼』を見かけるようになった。
 昔からのこの町の住人ではないと思う。小さな町なので、ほとんどの人が顔見知りなのだ。最近、ハイウェイが通って近くの大きな町との行き来が便利になり、新興住宅地が出来つつある。若い人が多いらしいが、次々と増えていくので把握できないでいる。きっと『彼』も新しい住人なのだろう。

 『彼』は、背はほどほどに高く、太ってはいないがスリムとは絶対に言えない、がっしりとした小山のような体格だった。年齢は三十代だと思うが、はっきりわからない。顔の半分以上は、ダークブラウンの髪と眉毛と髭に覆われているからだ。
 金髪の王子様タイプが好きな親友のエイミーには、悪趣味と言われるかもしれないが、実を言うと、『彼』の容姿は結構私好みである。体格のいい父に似ている所為かもしれない。私は父親っ子なのだ。

 問題は『彼』の目つきだ。太い眉毛の下からダークブラウンの瞳で、何故か、いつも私のことを睨みつけているのだ。喫茶店にいる間は、ずっと『彼』の視線に悩まされることになる。

 私が何か悪いことをしたのだろうか? 日々、大人しく過ごしているつもりだったのだが……。
 喫茶店でノートを広げて、のんびりしていることに不快感をもたれているのだろうか? 否、ノートに関しては、『彼』も始終、何か大きな図面を広げているので問題はあるまい。一応、一般の勤め人のランチサービスの混雑する時間帯は、ずらして来るようにしている。この時間にいるのは暇な年寄りばかりだ。大体、『彼』こそ、こんな時間に何故ふらついているのだろう。
 年中、遊んでいるように見えるのが腹立たしいのだろうか? いつもラフな格好で歩き回っているので、確かにそう見えるかもしれない。だが、『彼』の格好とて人のことを言えるような服ではない。大抵、清潔そうではあるが色あせたデニムのシャツとジーパン姿だ。

 最初は、困惑しつつも面白く思い、『彼』を小説の登場人物に仕立ててみようかとも考えた。だが、喫茶店に行くたびに睨まれると気が滅入ってくる。好みのタイプの男性に嫌われているとあれば尚更だ。
 もし、このことをエイミーに言ったら、「喫茶店に行かなければいいのに!」と言うだろう。
 しかし、後から来た住人にお気に入りの喫茶店を追い出されるのは、何となく腹が立つではないか。こうなったら半分意地である。

 今日も『彼』はゆったりと歩きながら、私のテーブルの横を通ると、隣のテーブルの向こう側に座った。つまりテーブル二つと椅子二つを挟んで私の正面に来るように座るのである。そして、私の顔をじっと睨みつける。いつもなら目が合ったら、こっちも睨みつけることにしている。
 だが、今は、さっき浮かんだアイデアが頭から逃げないうちに書き留めなければならない。ひとまず無視することにした。

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byおとなし おっと,Greenery Park 2003/11/08発表,2006/04/01加筆・修正

 

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